冒険家

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少し前、恵比寿を歩いていたら、ばったりと高校の先輩と遭遇した。
ものすごくびっくりした。
彼が卒業してから、もうずっと会っていなかったにも関わらず、すぐにお互いを認めた。
あまり仲がいいわけではなかったが、懐かしさが先にたち、スターバックスで軽くラテすることにした。

彼はある大手企業の某部署でけっこうな地位に就いていた。
二人の子供がいて、本人曰く「そこそこやっている」らしい。
ディズニーランドで撮ったという家族の写真を見せられた。
一姫二太郎のバックに彼と奥さん。幸せそうな「家族」をおさめた極めてティピカルな写真。
私の方には生憎そういう写真など無いので、「じゃ、私の家族も」と言いながら、携帯でこの間撮って失敗した(携帯のカメラで成功したことなんてないんですが)、月の写真を見せてあげた。

私が今やっていることを簡単に話すと「冒険してるねぇ」と言われた。

今度、職業を訊かれたら「冒険家です」と答えようと思う。
「冒険とは生きてかえってくること」
植村直己さんの言葉を思い出した。
なんとか生還したいと思う。

発生。あるいは太古のスープに似たもの

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さまざまな事柄のフラグメントが渦巻いている。

それらは増える一方。

整理することはおろか、

よく目をこらさないとひとつひとつの形すらわからない。

渦の中のちょっとしたきっかけが、

フラグメント同士を結びつける。

小さなかけら同士なのに、

思いのほか大きなものをかたちづくる。

冷蔵庫と食材

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食材を捨てるということがなかなかできません。
危険信号が灯った物が冷蔵庫にあると、友人に食事に誘われても泣く泣く断り、それらの最期を見とどけます(というか食いとどけます)。
学生の頃、長期遠征のため、冷蔵庫で人参をミイラ化させてしまったことがあります。
その人参の変わり果てた姿を見て以来、二度とこのようなことを起こしてはならないと思いました。

冷蔵庫からいろんな化石化した食物が出てくるCFがありました。
あれに出てくるカエルくんの目が好きです。カエルくんの黒目の面積を変えるだけで、感情ががらっと変わってしまうところなんか拍手ものです。

阿刀田高の短編に「干魚と漏電」という作品があります。
(高校のときに読んだものなのでかなり曖昧ですが・・・)
ある女性が格安の庭付きの家に引っ越してくる。
以前住んでいた家と同じような間取りで、ほとんど同じ電気機器を使っているのに、明らかにこちらの電気代の方が高い。
不思議に思ったその女性は原因を探る。
そして、庭に埋めてある大きな冷蔵庫を発見する。
ドアに手をかけ、中を開けると・・・。

干魚が結末を暗示しています。

月虹

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いつか見てみたい。月の光で輝く虹を。
大気中の埃や塵はスコールに洗い流され、澄みきった闇に幽んで浮かぶ。

このMOONBOWをハワイで見たことがあるという友人がいます。
現れたのはわずかな時間だったようですが、隣にいる彼女が、あまりの神秘的な光景に気圧されて、泣き出してしまったそうです。
虹が消えてからも、ずっと二人で、手をつないで、 何もしゃべらず、そこにあった宙を見ていたそうです。
その後、彼らは結婚しました。
「あの虹を見なければ、結婚はなかったな」と友人。
虹は儚さの象徴と言われますが、結婚して7年、まだ続いています。

デートの途中でこんなものが目の前に現れたら、もう結婚するしかなくなりますね。

絶望の遺跡

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横浜は9月も半ばで30℃を超えていますが、さすがに蝉の声は少なくなってきました。

友人から、蝉にまつわるこんな話を聴いたことがあります・・・。

蝉の幼虫は土の中で、7年もの間生活する。
7年といえば、相当に長い時間だ。
土があった豊かな自然には開発の手が入り、アスファルトやコンクリートで舗装される場所も少なからず出てくる。
もちろんそこには蝉が次世代の新たな命を託した場所もあるだろう。
土の中の幼虫が最後の羽化のため地上を目指す。
そして・・・。
まったく歯が立たない圧倒的なものを前に、蝉は何を思うのだろうか・・・。
少し前まで土だった舗装のすぐ下には、一度も陽の光を見ぬまま志半ばで命を落とした、そういう若い蝉の亡骸が数えきれないほどはり付いている。
無数の絶望。

という話です。
舗装前の地馴らしよりも深い所に蝉の幼虫がいるのかどうかわかりませんが、ありそうな悲しい話です。