モンモンブリーフ(後)

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その夜は風が強かった。
「照明は21時ちょうどに完全に落とすこと」という項目がモンモンブリーフの中に存在した。
だが、その日は生徒さんのコンタクトレンズが紛失するというハプニングがあって、5分ほど21時をオーバーしてしまったのだ。
照明を消してすぐに、あの、けっこういい人と評価された「若い衆」がやってきた。
静かなロビーに彼の怒声が響き渡る。
親分に命をかけて仕えているという、彼の生き様が見えた。
プロだ、と思った。
すぐに菓子折り<松>を持って、責任者が親分宅に出向くことに。
モンモンブリーフのその項は、「照明は21時ちょうどに『何があっても』完全に落とすこと」とすぐに書き改められた。

私が学生のころの話です。今はその親分も引越しされたようです。

モンモンブリーフ(中)

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豪邸には親分に仕える方が何人もいて、その中の幹部クラスと思しき人が入会することとなった。
その方はいつも若い衆を連れてレッスンに来るようになった。
若い衆は一目でそっち系と判る姿で、兄貴のレッスンが終わるまでずっとロビーで待っているのだ。
彼はじっと黙ったままでは雰囲気が悪くなるだろうと察したのか、それとも彼本来の持ち味だったのか、フロントやその他のスタッフに親しく話しかけたりするようになった。
「なんだ、いい人じゃん」
「いたってフツー。好青年」
などという評価が彼になされ始めたときの出来事だった。(つづく)

ブログに写真をアップできなくなってしまいました。
引っ越そうかと考えているのですが、どこかいいところあったら教えてください。

モンモンブリーフ(前)

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T線J駅から徒歩10分ほどの高級住宅街の中にそのテニススクールはあった。
すぐ隣には、高圧線を高くはりめぐらせ、監視カメラがいたるところにある「その筋」の親分の大豪邸がでんと建っていた。
テニスコートができる前からその親分宅はあって、スクール開校にあたり、騒音や照明などに関するいろいろと細かなトリキメがかわされたらしい。
そんな経緯があって、親分一家をできるだけ刺激しない運営を説いた、門外不出の超極秘マニュアルが、そのテニススクールには存在した。
私たち学生コーチの間で、その書類はモンモンブリーフと呼ばれていた。

曰く———-。

<ラリー(ボールの打ち合い)中にアドバイスするときは、できるだけ身振りで。やむをえず声を出さなければならないときは、本人がぎりぎり聞こえる音量で。>

<コーチが生徒を集めて話すときは、各コートの、親分宅からいちばん離れた場所に生徒を集合させ、なおかつ親分宅に背を向けて、できるだけ小声で話すこと。>

<ナイスショット等が決まって、生徒が喜んだときはすぐに静かにさせること。コーチは拍手のジェスチュアでそのショットを褒めること。>

<レッスン中、親分宅はできるだけ見ないようにする。もし、万が一、中の人と目が合ってしまったら、爽やかな笑顔で会釈し、自然な感じで目をそらすこと。くれぐれもじっと見たりしないこと。>

などなど・・・。(つづく)

フィクションとしてお読みいただければ幸いです。