隅っこの男。

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部屋の隅っこが好きな男がいました。
学生のころの話です。
彼は部屋(自分のであれ、友人のであれ)に入ると、すぐに隅っこに身を落ち着けました。
部屋の適当な場所に腰を落とすと、壁と壁(あるいは壁と本棚など)がつくるコーナーにエビのように後退しながらすっぽりと収まってしまうのです。
こう書くと、人付き合いの苦手な青白いブンガク青年のような男を想像してしまうかもしれませんが、ラグビー部の彼は180cmオーバーの真っ黒に日焼けした大男でした。ブンガク青年に違いはありませんでしたが。
彼曰く、隅っこは落ち着くのだそうです。270°は守られているわけだから、自分が集中するのは90°だけでいいと。ラグビーで360°戦っている反動かもしれません。
彼は隅っこに行っても、話の輪から外れるというわけではなく、遠い距離から大砲をうってくるように大きな声で話しました。
そんな大きな声で話さなくてもじゅうぶん聞こえるから、と言っても、彼はまったく意に介しません。
深夜になるといつも苦情がくるのではないかとひやひやしていました。

そんな彼からつい最近連絡がありました。
私が悲嘆にくれているという話を人づてに聞いて電話をくれたのです。
彼と話すのは実に5年ぶりでした。
お礼を言い、お互いの近況を報告しあい、その後、隅っこの話をしました。
もう彼は8歳になる男の子の父です。さすがに今は隅っこに行かないだろう、と聞くと
「行くよ」と一言。
彼が休みの日に隅っこで新聞なんか読んでいると、子供も真似をして、彼とは別の隅っこにすっぽりと収まって本を読んだりしているそうです。
あたたかな家庭が目に浮かび、思わずじんときてしまいました。

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