赤信号

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19のときに普通免許をとった。
その自動車学校は、川沿いに比較的大きな教習コースを持っていて、全国で初めて女性教官を採用したことと(たしかそうです)、卒業生の事故率全国ワースト1(当時、そう教官に聞きました)に輝いていることで名を馳せていた。

その教習所で、意図したわけではないのだが、実技(って言うんでしたっけ)の1時間目で私はアクロバット的な神業を教官の前で披露することとなった。
ご存知のように、マニュアル車は左から、クラッチ、ブレーキ、アクセルのペダルが並んでいる。クラッチは左足で、ブレーキとアクセルは右足で操作する。

スタートしてすぐのことだったと思う。
直線を少し長く走って、1つ目の信号が赤になった。
あぁ、赤ね。止まればいいんでしょ、止まれば。ブレーキ、ブレーキ。
教官が未だかつて経験したことのないスムーズな減速を私は完璧に行なおうと思った。
優雅かつ滑らかな動きでポンピングをいれる。
車は停止線に向かってゆっくりとスピードを落としていく。
そのとき、車に微かな震えのようなものが走った。
その震えは徐々にがくがくとした振動に変わる。
超高級車のような制動体験を教官に味わってもらおうという当初の目論見からはちょっと外れてしまったが、私は少しも慌てなかった。
あぁ、これがノックね。クラッチ踏めばいいんでしょう。クラッチ、クラッチ。
あれ、と思った。
クラッチを踏む足がないじゃん・・・。
私はあろうことかブレーキを左足で踏んでしまっていたのだ。
そこで私がとった行動は、瞬間的に身体を教官の方に反転させ、空いていた右足でクラッチを踏むという離れ業だった。
ハンドルを握ったまま、シートの上でツイストをしている状態だ。
右の脇腹から右の爪先までぴんと伸びたラインは、厳しい訓練を受けてきたバレリーナのようだ。
車は停止線手前でストップ。
外から見たら、非の打ち所の無い完璧な停車位置だっただろう。
教官と目が合ったので、ツイストをしたまま「こんにちは」と私は言った。心持ちはにかみながら。
教官は目を丸くして、「君のような生徒は前代未聞だ」と言った。
「ありがとうございます」私は深く一礼を返した。ツイストしたまま。

前代未聞の当事者になれたことに私は深い感動を覚えた。
そして自分史に残るこの出来事に軽くガッツポーズをした。

赤信号」への2件のフィードバック

  1. >教官と目が合ったので、ツイストをしたまま「こんにちは」と私は言った。

    最高です(笑)。
    この余裕とユーモア。かっこいいです!
    この日はちゃんと単位もらえたんでしょうか。

    私が教習所の構内で生まれて初めて車のハンドルを握って運転している最中、
    あろうことか隣の教官は居眠りこいてました。
    いくら同じところをぐるぐる回るだけだからって…。
    その度胸に感動するほどでした。
    (自分の日記にどこの教習所か書いてるからまずいかな…。)

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  2. akikoさま
    単位はもらえなかったような・・・。
    でも、その後はストレートです!

    akikoさんのノートに触発されての教習所ネタです。

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