非常事態。

e0cff777d9f94a968ce92010a43a0916
テニスの試合に行くため、朝の満員電車に乗った。
学生の頃の話だ。
その頃は車など持っていなかったため、移動はもっぱら電車だった。
荷物は大きなラケットバッグひとつ。
私の乗る駅で、電車からかなりの人が吐き出されたが、乗りこむ人はそれ以上に多かった。
先頭で待っていた私は、乗った途端、電車の奥の方へと追い込まれた。
立錐の余地もないとはこのことだ、などと思いながら人の波に身体を預けた。
バッグは邪魔になるので、両脚の間に立てるように置いた。
本を開く余裕はなかった。仕方がない。
すぐ前は、ちょっとタイプのOLのお姉さんだった。
朝からラッキー!と少し喜んだような気がする、が定かではない。
(一応もう一度書いておきますけど、学生のころの話ですよ)
彼女は私の方を振り向いて、にこりと笑い、私も5歳ぐらい背伸びした笑顔でそれに応えたような気がする、が定かではない。
発車して少したつと、気分が悪くなり始めた。
車内の人いきれ、練習で積み重なった疲労、寝不足、鉄分不足、酸素不足、オヤジ臭などいろいろと原因はあったのだろう。
このぐらいは大丈夫!と高をくくっていたが、冷や汗が流れ始めた。
次第に不安が募る。
いくつか駅を通過した。
このままで大丈夫?と自問するかたちになった。
いや、大丈夫じゃないでしょう。すかさず自答した。
息が少しずつ荒くなる。
吐いた息のかたまりが前に立つお姉さんの首筋にヒットしているのが容易に判る。
彼女は相当に怪訝な表情で振り返った。
そんな顔で振り返られても、私の方も緊急事態なのでどうすることもできない。目はうつろで息は乱れたままだ。
推測の域を出ないが、ラケットバッグのちょうど上端の部分が彼女のどこかに触れていたのかもしれない。
あぁ、この人はおそろしい勘違いをしているんだろうな、と酸欠の頭でも想像できた。
いっそのこと、ここで吐いてしまった方が身の潔白を証明できそうな気がしたが、「人前では絶対に吐かない」という自らに架した掟を、ずば抜けた精神力で守ることにした。。
頭の中では申し訳ないと思いながらも、逆にこっちがキレますよ的な雰囲気を全身に醸しながら次の停車駅まで耐えた。
ドアが空いた。
人をかき分けてホームに降りた。

しばらくベンチに横になって、何度か深呼吸すると、いくらか楽になった。
2本ほど電車をやり過ごしたと思う。
乗り換えの駅まではもうすぐ。とりあえず掟を破らずにすみそうだ。
気を取り直して、次の満員電車に挑むように乗り込んだ。
俺はたったいまものすごい経験したんだからな的な、怖い物なしの視線を車内にびしびし発しながら居場所を確保した(誰もそんな視線見てないんですけど)。
前は男性会社員、少しほっとした。
結局それからは何事もなく目的地に着くことができた。

あのときのお姉さんごめんなさい。

テニスの大きなラケットバッグって、一般乗客の方にしてみたら邪魔物以外のなにものでもないですよね。テニス人代表として、この場を借りてお詫び申し上げます。

非常事態。」への10件のフィードバック

  1. すごい緊張感が伝わってきました。
    自分も電車の中でいきなり目の前が遠くなって行って、だんだんと体の力が抜けていって、耳も遠くなっていって、気を失いかけましたけど、自分も人の前で気を失いたくないと思い、意地と根性で乗り越えた時あります(笑)
    物凄い満員電車って何かと周りの人と急接近で触れ合ってしまうので、いろんな意味で良くも悪くもですね(笑)
    自分は、満員電車の時はチカンと間違えられたくないので、両手を周りの人に見える位置にしてる場合が多いですね。

    いいね

  2. Tさま
    満員電車は苦手です。なかなかうまく本が読めなくて・・・。
    両手で本を持っていれば一石二鳥なんですよね。

    いいね

  3. 電車の中で気持ち悪くなるというのは今までで4回ほど経験しました。

    1度目は、途中駅で下車し、駅のベンチで戻しました。(大敗)
    2度目は、途中駅で下車し、深呼吸で難を逃れました。(勝ち)
    3度目は、やはり途中駅で下車し、深呼吸に救われました。(勝ち)
    しかし、一番最近。つい一ヶ月ほど前ですが、
    朝の満員電車で気分が悪くなり、どうにもこうにも耐えかねて
    途中駅で下車し、そのまま駅のトイレに猛然と突き進み戻してしまいました。(負)

    現在2勝2敗
    次は精神力を鍛えて、何とか勝ち越せるようにしたいと思います。

    人前で戻すのは最悪ですよね。
    ただ、小さいころから乗り物に非常に弱いんですよね…。
    未だに車で酔いますし。

    いいね

  4. 満員電車で本が読めなくなるのは実に共感できます。
    女性専用車両があるのなら、読書専用車両とかあればいいかもしれないですね(笑)
    どんなのかは想像できませんけどね。

    いいね

  5. Tさま
    読書専用車両、いいですね。
    小説専用車両とか、ノンフィクション専用車両とか。
    私語、携帯禁止。
    車内の照明はちょっと雰囲気があって。
    飛行機の座席みたいに、手もとを照らすライトなんかがあって・・・。

    いいね

  6. 妄想が尽きませんね(笑)
    良いアイデアだと思います!
    誰か、このノートを見ている電車関係の人がいたら、
    実現してほしいですね。

    いいね

  7. う~む。
    読書専用車両なんて素敵ですね。
    グリーン車レベルで高くなりそうですけど…。
    遠方に行く列車には必須な感じですね。

    それから超個人的にですが、朝の通勤時間に
    ゆっくり眠りながら乗れる車両があったら最高だと思います。

    埼京線混みすぎなんです。
    自分も含め、埼玉の人は東京に集まりすぎる…。

    いいね

  8. Tさま
    本のこととなると妄想がつきません(笑)。

    最近、電車の中でぐらいしかなかなか読む時間が無くて、これではいけないなと思っています。昔は、家で読むための本を何冊か、電車の中で読むための本を何冊か、とか複数並行読みしていたんですけど・・・(泣)。

    いいね

  9. 山口さま
    グリーン車レベルの乗車料金になってしまいますよね(笑)。

    睡眠専用車両、それも賛成です。
    全席フルフラットシートで、降車駅が近づくと心地よい音で起こしてくれる。心地よい女性でもいいです・・・(笑)。

    いいね

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中